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2019-08-20
ロックンロールの懐旧感、具体的には「ロックンロール・ミュージック」などの
佐藤信の戯曲「ブランキ殺し上海の春」には3種の版があるという。
そのうち第2稿「ブランキ版」の初演は1976年(昭和51年)、最終稿「上海版」の初演は1979年(昭和54年)。
両版は『喜劇昭和の世界 3』に収められている。

両稿における音楽の使われ方。
第2稿「ブランキ版」のベースはピアノ音楽。とくに、ダンス音楽としてのワルツ。
対して激しさを担うロックンロール。この音楽はつねにある人物のヘッドフォンから突然に大音量で漏れだす。ロックンロールが流れ出す場面には、いつも老人(じつはルイ=オーギュスト・ブランキ)が居合わせる。
時折タンゴ味。

最終稿「上海版」はタンゴにはじまり、タンゴで終わる。とくに「ラ・クンパルシータ」。
途中では、革命歌の「ラ・マルセイエーズ」、「インターナショナル」、初期のスイングジャズ、テンポの遅いブルース、メリーゴーランドの伴奏を思わせる素朴な旋律のレコードなど。全体に古めかしく。

第2稿から第3稿へは、タンゴをベース音楽として定めたことによるノスタルジーの深化。

第2稿で言うロックンロールとは?
上演時に流された曲が何かは知らないが、チャック・ベリーの「ロックンロール・ミュージック(Rock and Roll Music)」かそれに類するものではなかったか。ある時期までロカビリーと呼ばれていたジャンル。

1957年、チャック・ベリーの「ロックンロール・ミュージック」が全米8位のヒット。
1964年、ビートルズがアルバムの1曲としてカバー。
1966年、ビートルズの日本武道館公演で1曲めに演じられる。
1976年6月、ビートルズの2枚組ベスト・アルバム「ロックン・ロール・ミュージック(Rock 'n' Roll Music)」に、2枚目の第1曲として収録。
1976年12月、「ブランキ版」初演。

ロックとロックンロールを懐旧感の有無あるいは強弱で分けることができる。
たとえばチャック・ベリーもプレスリーもすべて懐かしい。
昔の歌だから懐かしいのではなく、彼らの音楽は発売時からすでにノスタルジックではなかったか。

「ブランキ殺し」第2稿から第3稿への移行は、内包されたノスタルジーからあからさまなノスタルジーへの移行。