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2019-04-18
地球にいながら見る月の地平線のことなど
地球から月の地平線が見える。
わかる人には常識以前なのだろうが、月を縁取る円周すなわち輪郭線は、じつは地平線でもある。
すなわち、われわれは地球にいながらにして月の地平線を見ることができる。


このことは以下の思考実験でイメージできる。
わたしが月探査船の乗員であるとして、船の前方に円形の月が浮かんでいるとする。
探査船が月に近づくにつれて月の姿はしだいに大きくなる。
やがて月はわたしの視野をはみだし、まるごとの球としては見ることができなくなる。
この時点を境に、それまでわたしによって月の輪郭として認識されていた円周が、急速に月の地平線として認識されるようになる。
さらにわたしが探査船から月の地表に降り立った時点では、前方の地平線がじつは月の輪郭であるとの認識は、わたしから完全に失われていることだろう。
思考実験終わり。

以上と逆のことが、月探査船の乗員としてわたしが地球を離れていく際に起こる。
地上近くではわたしの視野に納まりきれなかった地球が、やがてまるごと視野に入ってきて、円形の地球に変わる。同時に、それまで地平線としてわたしに認識されていたものが、地球の輪郭をあらわすものに変わる。

日常の経験の範囲では、われわれは高い塔にのぼっても、見晴らしのいい山頂でも、球形の地球を視野の内に納めることはできない。
この事情は飛行機に乗っても同じ。
では地球からどのくらい離れたら、われわれは丸い地球を眼下に納めることができるのか。
その距離は簡単な計算で求められる。
Wikipedia に「正常な人で、片目では鼻側および上側で約60度、下側に約70度、耳側に約90~100度と言われている」とあり、人間の視野は左右方向に比べて天地方向が狭い。そこで狭い方をとって、われわれの視野の広さを 60 + 70 = 130 度と仮定する。
また、地球の半径を 6400 km とし、求める地上との距離を h とすると、これらのあいだに
  sin 65° = 6400 / (6400 + h)
の関係があり、これを解いて h ≒ 660 (km) を得る。

ちなみに、人類初の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンを乗せたボストーク1号の近地点は 169 km、遠地点は 327 km (Wikipedia) というから、計算で得た 660 km に遠く及ばない。
これらのことから、ガガーリンも地球の全体をひと目で見渡すことはできなかったとわかる。

[追記 2019-04-23]
月の地上から見る地球。

こうして並べると、こちら(月)の地平線とあちら(地球)の輪郭が本質的に同じものであることが実感できる。
言うまでもなく、この関係は月と地球を入れ替えても同じ。
また、月の地平線と同じく月の輪郭の関係も同様。近くから見れば地平線、遠く離れて見れば輪郭。