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2012-12-19
宇治山田の米友とは
『大菩薩峠』を読まずにすますプロジェクト、その3。

『大菩薩峠』で最も多く登場するのは宇治山田の米友なる人物。
第六巻「間の山の巻」のはじめから3分の1あたりで、はじめて名前が出てくる。

これが「米友」という名前の初出。
「米友(よねとも)さん、米友さん、家にいるの、よう米友さん」
- 中里介山 大菩薩峠 間の山の巻

その少し前に、米友の登場が次のように描かれている。
 とんぼ口から飛び出したのは、一人の子供……身の丈は四尺ぐらい、諸肌脱(もろはだぬ)ぎで、手に一本の竿(さお)を持って、ひょいと飛び出したところを見れば、誰も子供が出たと思います。
 しかしよくよく見れば、子供ではないのでありました。面(かお)は猿のようで口が大きい、額(ひたい)には仔細(しさい)らしく三筋ばかりの皺(しわ)が畳んである。といって年寄ではない、隆々とした筋肉、鉄片を叩きつけたように締って、神将の名作を型にとって小さくした骨格。全体の釣合いからいえばよく整うていて不具ではないが、柄を見れば子供、面を見れば老人、肉を見れば錚々(そうそう)たる壮俊(わかもの)。

米友はどうやら善良な人物のようである。
「神将の名作を型にとって小さくした骨格」という表現に作者の期待が込められているように見える。
たんに善良なだけでなく、「悪」の形象である机竜之助に対し、「善」の形象を配して作者は何かを――たとえば、「救済」といったようなものを――探ろうとしたのではないか。

青空文庫の図書カードを見た。
参詣の人々でにぎわう伊勢の町。旗本一行の座敷に呼ばれた芸人お玉は、間の山節を披露した帰り、遊女から一封の手紙と金包を預かる。お玉に手紙を託した遊女は、身をやつしたお豊であった。翌朝、遊廓に逗留する旗本たちの懐中一切が盗まれ、やがてその嫌疑はお玉にかけられる。愛犬ムクの活躍であやうく捕り方の手をのがれたお玉は、幼なじみの槍の名手、米友(よねとも)に助けを求めた。米友の荒家(あばらや)で、昨夜預かった手紙が遺書であることを知ったお玉は、捕り方探索のさなか、お豊からの手紙をたずさえ竜之助のもとへ向かう。
- 図書カード:大菩薩峠

やはり善なる人物のようである。
しかし、図書カードを読んだのは少しまずい。全巻の図書カードを読んでしまったら、これから探ろうとしていることが前もってわかってしまう。今後は図書カードをなるべく見ないでやること。

「米友」という文字列が最初に現れる場所を探すのに使った Awk スクリプト。
/米友/ {
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}