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2012-12-16
机竜之助の行方
中里介山の『大菩薩峠』は中学のころ抄録本で読んだ。最初の数巻は全文載っているが残りは粗筋という本である。
冒頭の部分はうっすら思い出せるが、それを除くと内容はおぼえていない。だからこれは自分の記憶というよりどこかで聞いたか読んだことなのだが、後半になると主人公の机竜之助はほとんど登場しないという。
はたしてその通りか。青空文庫のテキストを借りて調べてみた。

竜之助の登場を、「竜之助」という文字の出現回数で見ることにする。Awk プログラムなら2行で調べられる。
/竜之助/ { counter++ }
END { print counter }

厳密にいうと、「竜之助」の出現回数ではなく、「竜之助」を含む段落の数を数えている。つまり、同じ段落に複数回現れても、1回にカウントしている。
『大菩薩峠』全41巻は巻によって長短があり、長いものと短いものでは5倍ぐらい違う。「竜之助」の出現回数が多いからといって、竜之助が活躍しているとは言えない。むしろ、出現比率を調べるほうがいいだろう。総出現回数のかわりに1000段落当たりの出現回数を見ることにする。

プログラムは次のようになる。コンマ以下の端数は切り捨てる。
/竜之助/ { counter++ }
END { print int(counter/NR*1000) }

結果をグラフにすると次のようになる。横軸が巻数、縦軸が1000段落当たりの出現数。やはり聞いたとおり、後半で竜之助の登場は激減している。出現回数が20を下回った巻を検索すると、竜之助が登場しているのではなく、ほかの登場人物によって言及されてるだけだったりする。



では、机竜之助はどこへ消えたのか、あるいは隠れたのか。辻斬りや誘拐で凶々しくデビューして、悪逆のかぎりをつくすかに見えた主人公はどうなってしまったのか。それに、竜之助の登場が減ったということは、他の人物の登場が増えたということであろう。だとすれば、後半でも竜之助は主人公なのだろうか。――といったことを、全41巻も読んで確かめるのは大変だから、ネットの情報とプログラムで調べてみようと思う。