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2016-11-02
山の掟
冬山で遭難して眠り込む。
寝るな、寝るなと励まされて迷惑する。
かんべんしてくれ。
ほっといてくれ。
眠いから寝る。それって人間の最優先事項だろう。
目がさめると同行の三人は死んでいる。
「だから言わんこっちゃない」
とドラマの台詞みたいに言う。
日が昇りかけて、雪山がピンクやオレンジに染まる。
雪がゆるまないうちにと急いで下山する。
名前は都立家政です。
何の名前かって、もちろん私のですが。
だけど、待てよ、それはいつか読んだ本の題名ではなかったか。
いや、違う。小説の題なら新井薬師だ。
「どう書きますか」
と登山口の管理事務所で訊かれるが、薬師という字が説明できない。
冬山の掟──眠り込んだら死ぬ──を犯して生還した。
そのせいで頭が混乱してるらしい。