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2016-04-23
城西アンダーグラウンド
わりに最近(今年の初めくらいか)読んだ小説。
タイトルも著者も思い出せないので、かりに「城西アンダーグラウンド」としておく。
渋谷センター街の小さなビル。地下へ降りる階段のかわりに、直径1メートルほどの穴があいていて、鉄製のはしごがかかっている。ビルの4〜5階分はありそうな長いはしごを降りきると、横穴が北(新宿方面)に伸びている。
横道がさかんに分岐しはじめる。
いろいろな太さの管(水道管やガス管だろう)や電線を通すための坑道だったり、浅い流れの下水道だったりする。
途中で地下鉄の線路に入り、駅のホームに登って乗客のふりをして歩く。
ホームの端まで行ってまた線路に降り、別の横穴に入る。
代々木公園の近くでいったん地上に出る。なんのために地上に出たのか。こんなことならはじめから地上を歩いてくればよかったのではないか。地下鉄のホームのことも同じ。地下鉄に乗ってくればよかったのに。
ふたたび地下にもぐってしばらく行くと、40〜50畳の部屋がある。壁、床、天井はむき出しのコンクリート。天井は高さ2メートルほど。
その部屋に10人ほどの若者が住み着いている。地上で生きるのに必要な体力や気力が足りないのだという。
自分もその部屋で暮らしはじめる。

自分?

ここまでストーリーを思い出しながらたどってきて、いきなり「自分」が出てきたので戸惑う。この「自分」は今この記事を書いている自分。他人の書いた小説に自分が出てくるはずはない。自分は有名人でもないし、小説家の知り合いもいない。
だとしたら、自分は小説を読んだのではなく、夢を見たのではあるまいか。

食事当番がいて、1日2回食事が出る。
どろどろの煮物が鉄のボールに入れて配られる。下水道で集めてきた野菜や肉を煮詰めたものだから臭い。ダイコンや肉の切れ端が原型のまま混じっていることがあり、それはごちそうであるとされる。
自分たちのいる部屋と短い通路でつながって、もう一つ部屋がある。
そちらは20畳くらい。部屋の真ん中に布団を何枚か重ねて、その上で老人が暮らしている。夢だったとすれば(誰かの書いた小説だったとしてもだが)、これは昔の牢名主がイメージの下敷きではないか。
老人はこの地下コミュニティーの中心的人物であるらしいが、何かを指導したり命令したりはしない象徴的存在。
その老人が死んで、かわりに自分がその地位につく。部屋もそれまでいた広い方の部屋から老人のいた部屋に移る。食事は、前の部屋にいたとき何度か言葉を交わしたことのあるヨシローという若者が運んでくる。なぜかヨシローは最初から自分に好意的。
地位だけは中心的人物になったといっても、自分は住人の一人ひとりをよく知らないので、どう付き合えばいいのかわからない。そのうち、コミュニティー全体がぎくしゃくしてくる。やはり象徴としてだけでなく、何かはしなければいけなかったのだろう。
「クーデターを起こそうとしてる連中がいる」
とヨシローが言う。
べつに地位を追われても困ることはないのだが、暴力的な騒ぎになるのは嫌だなと思う。

コミュニティ内のぎくしゃくはおさまらず、殴り合いがはじまる。
ふいに外部勢力が登場する。銃やボウガンなどの飛び道具で襲ってくる。コミュニティーの内紛につけこんで部屋を乗っ取ろうとしているらしい。
ヨシローとともに部屋から逃げ出し、下水道を走る。
そのときになって、ヨシローが何者だったか思い出す。ヨシローは自分の生家の近くに住んでいた10歳ほど年長の知り合いだった。年が違うからそれほど親しくしていたわけではないが、ときどき将棋を指したことがある。その知り合いが、今は自分より年下になって地下で暮らしていたのだ。
下水道の水かさが増してくる。
おりよく流れてきた材木につかまって、二人で流されて行く。
やがて前方に外の光が見えてくる。
下水道の終端に達するが、鉄製の格子がはまっていて外に出られない。水とゴミだけが勢いよく流れ出している。外の景色は千駄ヶ谷あたりのようである。

このごろ夢と現実を取り違えることがある。
今回は夢と読書体験を取り違えたらしい。何カ月もたって思い出す夢というのも面白い体験なので、以上メモ。