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2016-03-03
アッシャー家の崩壊
アッシャー屋敷が崩壊すると聞いて見にゆく。
ポーが「アッシャー家の崩壊」で描いたことが、今から現実に起こるという。
現地に着くとちょうど崩壊がはじまるところ。気味悪い音を立てて三階建ての屋敷に亀裂が走る。

アッシャー家は兄と妹の二人暮らし。語り手の「私」が滞在しているあいだに妹が病気で死に、遺体を棺桶に入れて地下室に置いておく。やがて何かが階段をはい上がってくる音が聞こえ、血まみれの死装束を着た妹が現れて兄を追いかけ回す。妹が兄を押し倒してのしかかると兄も死んでしまう。こわくなった「私」が屋敷を逃げ出すと…──A・E・ポーの「アッシャー家の崩壊」はそういう話。
この話と同じことが現実に起こるというので、屋敷のまわりに野次馬が集まっている。
すでに、原作に描かれたのと同じように屋敷に亀裂が入った。さらに、これも原作にあるとおり語り手が屋敷の玄関から走り出て、こちらに向かって逃げてくる。その背後で屋敷が轟音とともに崩れ落ちる。
あやうく難を逃れた語り手が、
「やられた、やられた」
とわめく。語り手はポーの顔をしている。それで語り手がポー自身であることがわかる。
「作品を盗まれた」とポーは野次馬たちに訴える。小説そのままにアッシャー家が崩壊を実行したのは、著者に無断で映画化するのと同じではないか。

野次馬をかき分けて死んだ妹が現れる。
「お前こそ、うちの話を盗んだじゃないか」
と叫んでポーにつかみかかる。
妹が野次馬たちに経緯を説明しようとする。興奮していて話の筋がわかりにくいが、どうやらポーがアッシャー家に伝わる因果話を盗んで書いたのが「アッシャー家の崩壊」だと主張しているらしい。
ポーも興奮して何か言い返す。
人混みの外側で、死んだ兄が言い争いをながめている。じつは妹を棺桶に入れたとき、彼女はまだ死に切っていなかった。口論の成り行きによってはそのことが蒸し返されそうで、兄は介入をためらっている。