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心は案外単純にできている
生物の環境適応性、 自律分散性、 創発性をモデルに人工システムの研究を行っている慶應義塾大学の前野隆司教授は、 これまで言われてきたより人間の心 (意識) は簡単にできているのではないか、 ならば、 ロボットの心を作ることもそれなりに簡単ではないか、 という説を立てている。 題して、 「受動意識仮説」。

- ロボットの心の作り方 ―― 受動意識仮説に基づく基本概念の提案 (PDF)

以下の引用は、 いずれも上記論文から。

前野が提出する心のモデルでは、

「意識」 は 「無意識」 とは独立な, 境界が明確なシステムであると考える. また, 「注意」 は 「意識」 が能動的に発するものではなく, 「無意識」 下の自律分散的処理のうち, 発火頻度の高いものを受動的に選択する機能であると考える. 「意識」 は認知の “原因” ではなく “結果” に過ぎないと考えるのである. 言い換えれば, 「意識」 とはワーキングメモリの特殊な状態の一つであり, 「無意識」 下の処理を必要最小限に単純モデル化し, エピソード記憶として保存するために存在していると考えるのである. そうであるならば, 多様な 「無意識」 システムからの多数の入力を単純化しシミュレーションするモデルであるヒトの 「意識」 は, 自律分散処理を行う大脳内システム群よりも単純な情報処理により近似を行えればよく, その神経回路は大脳全体に比べ極めて小さくてよい.

「意識」 は認知の “原因” ではなく “結果” に過ぎない。 ―― これが前野仮説のポイント。 従来の考えでは、 「意識」 は能動的なシステムであり、 「無意識」 システムの動きを常時監視していなければならないが、 その場合、 いわゆるフレーム問題 (*1) に突き当たって、 演算量の爆発が起きてしまう。 これに対して 「意識」 を受動的なシステムとする前野の説では、 「意識」 システムは 「無意識」 システムから送られてくる情報を待っているにすぎず、 フレーム問題を回避できる。

80年代に行われたある実験によると、 ヒトが指を動かそうと意図する時、 それより数百マイクロ秒早く、 脳の運動準備電位が発生するという。 前野論文はこの実験結果を援用して、

筆者や Libet らの考えでは, 「よーい, ドン!」 というピストルの音をトリガにヒトが走り始めるとき, 走り始めようとする意図を 「意識」 するのは, 実は 「無意識」 下で運動の準備を始めた後なのだが, 意図するタイミングが繰り上げられる結果, あたかも「意識」下で自分が主体的に意図したかのように幻想しているということになる.

と述べ、 「意識」 のあり方を 「幻想」 または 「錯覚」 であるとする。 これが前野仮説のもう一つのポイントで、 結果として知らされたことを、 あたかも原因の発生時に知ったかのように錯覚するのが 「意識」 システムなのだという。

このように、 いわば非力なシステムとして心をとらえると、 ヒトの心をモデルに作られるロボットの心も、 それに応じてシンプルなものになる。

難易度が高いのは 「無意識」 システム内の詳細アルゴリズム構築とプログラミングであって, 「意識」 システムの基本アルゴリズム上の問題ではない. これらの課題が解決されれば, ヒトと同等の心を持つロボットは実現可能であるといえる.

受動意識仮説に基づいて提案されるロボットの 「意識」 システムでは、 これまで 「意識」 システムの役割と見なされていたものの大部分を、 「無意識」 システムに委ねることになり、 実現のための負担がはるかに小さい。 この仮説を受け入れるなら、 ロボットが心を持つ時代はそう遠くなさそうだが、 いかに。

*1 フレーム問題については、 こちら。
- 西の海へさらり: 昔、 R1 というロボットがいて ―― フレーム問題の寓話

-category ロボット
[07-09-01]
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受動意識仮説の歌 2008-01-16
月に叢雲 (むらくも) 花に風吹雪く化生 (けしょう) の黄昏 (たそがれ) ぞ …自分としては化生≒仮象ぐらいに理解して、 これを 「受動意識仮説」 のテーマソングとしたい。 仮象なんだよ、 人は。…
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