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電子書籍が印刷を超える日 (1) 本というデバイス
本を買うという行為には、 コンテンツだけでなくその入れ物を買う楽しみが伴う。 表紙のデザイン、 本文のタイポグラフィ、 紙の質感、 持ったときの手触り、 開いたときのハンドリングの感覚、 そういったコンテンツにとっては付随的なものが、 本の価値の大きな部分を占め、 内容よりも外形的なファクターによって、 買う買わないの判断が左右されることは多い。 また、 本という具体的なブツだからこそ、 所有欲が満たされるということもある。

同じことは、 音楽の世界でも長く続いてきた。 LP の時代ほどではないにしても、 CD には、 ジャケットのデザイン、 封を切って中身を取り出す感触、 封入されたブックレット、 そこに記されたライナーノート、 といった付随的な楽しみがある。 音楽の電子配信がいろいろ模索されながら、 なかなか軌道に乗らなかったのも、 この付随的なファクターが大きな比重を占めていたからだろう。 この音楽配信の停滞を打ち破ったのが、 配信システムiTunes Music Store (iTMS)、 再生ソフト iTunes携帯端末 iPod の三点セットだったのだが、 なぜ iTMS のサービスは成功したのか。 一般には、 スタート時から100万曲を用意したコンテンツの充実が、 最大の要因としてあげられるが、 iPod というハードが果たした役割は、 コンテンツの充実より大きかったかもしれない。 軽量、 かつ大容量で、 アップルという文化的な香りのするブランドを背負った iPod は、 CD に代わるブツとしての楽しみをユーザーに提供した。

電子書籍の成否についても、 iTMS と同じことが言える。 iPod のように、 持ってうれしい読書端末が登場すれば、 事態は一気に動き出すのではないか。

書物の電子配信は、 音楽よりハードルが高い。 CD や DVD は、 たんに情報を運ぶメディアであって、 コンテンツを楽しむには再生装置がいる。 これに対し、 印刷物はそれ自体が再生用デバイスであって、 別のデバイスを必要としない。 このアドバンテージが、 印刷メディアの寿命を長く保たせることになるだろう。
本や新聞、雑誌というデバイスには、 現状のデジタル機器では代替できない高度に洗練された機能がある。 その最大のものは一覧性の良さ。 人は本や雑誌をぱらぱらめくったり、 新聞をざっとながめるだけで、 自分が必要とするトピックを拾い出すことができる。 情報ポータルなどのウェブサイトは、 一覧性の提供に工夫をこらして、 トピックへの上手な誘導がはかられているが、 携帯端末で同等の一覧性を実現するのはとうぶん無理だろう。
ほかにも、 必要ならば書き込みができる、 目印代わりにページを折ることができる、 付箋を貼ることができる、 たたんだり折り曲げたりできる、 充電が不要、 視認性可読性の高さなど、 印刷物の優れた点は多い。 付箋や書き込みなど、 電子書籍で実現されている機能もあるが、 これも手軽さや一覧性でまだ紙に及ばない。

しかし、 これらのハードルは超えがたいものではなく、 個々にはすでに実現されている。 たとえば、 携帯電話や PDA のデザインは、 非常に優れたものになってきている。 少なくとも見かけのデザインに関しては、 「持ってうれしい」 という特性を読書端末に持たせることは容易である。 紙メディアの特性と同等のものをデジタル機器に実装することはできないにしても、 検索機能や場所を取らないなどの特性を加味した総合的機能でデジタルデバイスが紙の本に追いつく日を、 かなりの具体性をもって見通せる時期に来ているのではないか。 iTMS の例が教えてくれたように、 電子書籍の成否を決めるファクターとして、 再生デバイスのほかにコンテンツや配信システムがある。 次回エントリーで、 これらのファクターを整理してみたい。

-category モバイル電子ディスプレイメディア
[06-04-15]
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