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2016-05-31
ローマ便り
ごぶさたです。ローマからです。

ファシストのグラフ誌は演劇に資すると当時の人も言ってました。この連中は茶番に歴史の色彩をほどこす叙事的演劇の技法を心得ている、と。
ヴェネチア宮殿のドゥーチェの執務室で長い会談が終わったところです。
ドゥーチェにいとまごいをするドイツ帝国外務大臣リッベントロープ。
右にイタリア外務大臣ツィアーノ伯爵。
ドイツ帝国大臣の背後にローマ駐在ドイツ大使フォン・マッケンゼン。
左にベルリン駐在イタリア大使ディーノ・アルフィエリ。
記念撮影の配置は以上のようでした。その右に三つ子のマフィア。

「山高帽のおじさん、こんにちは」と少女が声をかける。「お花を買ってくださいな」
花束を受け取って立ち去ろうとする男を、少女は呼び止める。
「あのー、ひとつ聞いてもいいですか」
「いいとも。でも、なんだろうね」
「おじさんは不思議な人の感じがします。何をしている人ですか」
「わたしかね、わたしは未来派だよ。知ってるかな、未来派」
「名前は聞いたことがあります」
「そうか、そうか。名前を聞いたことがあれば十分。でも、もう少しだけ教えてあげよう」
「はい、ありがとうございます」
「われわれ未来派はね、
 ひとつ、名詞を思いつくまま並べて統辞法を破壊せよ。
 ひとつ、動詞を不定法のまま使え。
 ひとつ、形容詞を廃止せよ。副詞も廃止せよ。
そういう運動をしてたのだよ」
「なんだか、とても難しそう」
「そうか、難しそうか。では、ひとつだけ。いいですか、花売りの娘さん、誰もが『きれいなお花』と言いますね。でも、そんな言い方はいけません。ただ『お花』と言えばいいのです」
「でも、おじさんはその運動をやめてしまったのですね」
「さとい子だね、そのとおりだよ」
言いよどみながら、山高帽の男は付け加える。
「いまはもう未来だから」

ちなみに今回の上演が僕に教えてくれたのは、役者は筋を演じきらなければならないということでした。
アーモンドの花が盛りのローマにて。